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【読書キロク】騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア

村上春樹作、小説『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア』の感想です。
全2部のうちの1部。

管理人は村上春樹作品読んだ経験はあまりなし。
高校生の頃に教科書に載っていた『七番目の男』に惹かれ、図書館で短編集を読み漁り
アフターダーク』を何度か読み(彼の作品の中でもあまり評価の高いものではないようだが)
色彩を持たない多崎つくる〜』を1度軽く読んだ程度。

名作と評されている『ねじまき鳥クロニクル』や『海辺のカフカ』は、実は読んだことがなかったりする。
そのうち読もう読もうとは思っているんだけどね。

そんな感じなので、決してハルキストや村上春樹フリークというわけでもないのだが
今回、2017年2月24日発売の『騎士団長殺し』は何となく気になったので、発売日に購入して読むことにした。

 

感想

ネタバレあります。第2部の内容までは触れていません。

イデアなど難解な言葉も出て来るが、いつもの村上春樹作品らしく、基本的にシンプルで読みやすい文体
1日もかからずに読めた。

騎士団長殺し』といういささか物騒なタイトル。
騎士団長とあるが、特に中世が舞台などではなく、現代日本が舞台。(舞台は基本小田原

この第1部では起承転結の起・承までが記されている。
序盤の4章くらいまで(私が離婚し、旅をしてから山の上の家に住むまで)は正直あまり面白くはない。

騎士団長殺し』という絵画の発見、免色の登場あたりから話が一気に面白くなってくる。
ページを繰る手が止まらなくなる。
鈴の音の下りはどことなく怪奇小説のような雰囲気もある。
実際に上田秋成の『春雨物語』と似通った状況らしいし。

 

 

雨田具彦という画家の過去を通じて、戦争の事にも触れている。
彼が戦時中のウィーン滞在時、恋人が反ナチ地下抵抗組織に所属していた。
その組織がナチス上官暗殺未遂事件を起こし、恋人達はみな処刑されるかして死んだ。
一人生き残った雨田具彦は何を思って『騎士団長殺し』を描いたのか。
そもそも村上春樹は何を思ってこの『騎士団長殺し』を書いたのか。

前述の通り、管理人は村上春樹の作品をそこまで読んでいないので、彼の思想などはあまり知らないのだが。
非常に興味深い。

飛鳥時代の格好の騎士団長の姿をしたイデア
こんな設定そうそう思いつくものではない。
読んでる途中、頭の中で姿を描くのに苦労した。
このような、常人は決して思いつかないような無茶苦茶感も彼の持ち味だと思う。

イデア
哲学用語。見えているもの。姿。形。考え。概念。
何とも言葉にし難い存在である。
管理人は哲学的な事は一切分からないので、イデアと言われてもではある。
いずれ簡単な哲学書でも読んでみようか。

あと村上春樹作品お馴染みですが、今回も主人公はパスタを茹でてセックスをしているのでご安心を。
ジャズやクラシックも出てきます。

ハイライト

ではふりかえります。管理人なりの解釈をしながら読み進めています。

プロローグ

顔のない男(肖像画家)に「肖像を描いてもらいにきたのだ」と言う。
しかし顔がないので、画家は肖像画を描く事が出来ない。
”何もないものをいったいどのように造形すればいいのだろう?”
そうしている間に時間が来て、顔のない男は姿を消す。

序盤からわけがわからないながら非常に興味深い描写。
顔のない男とは一体何者なのか?

1 もし表面が曇っているようであれば

その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの山の上に住んでいた。

その山の上の家の紹介と、住むことになった経緯、
(画家)がどのようにして肖像画家になったかの経緯、
山の上の家に住んでいる間に2人の既婚女性とセックスする関係になったことが語られる。
(※2人とはあくまでも別々に関係を持っていた)

彼女たちと肉体関係を持つことは、道路でたまたますれ違った人に時刻を尋ねるのと同じくらい普通のことのように思えたのだ。

でも彼女がそこに求めていないものがひとつだけあった。それは親密さだ。

関係を持った女性達はいわゆる不倫の関係だったが、あくまで愛情や親密さを感じずにセックスするだけの関係だったらしい。
それにしても”道路でたまたますれ違った人に時刻を尋ねるのと同じくらい普通”に2人の既婚女性とセックスすることはなかなか普通のことではないと思うが、まあそこは村上春樹作品なので。

肖像画を専門とする画家になったのは必ずもの本意ではなかったらしい。
生活するためにやむなく肖像画を描き続け、それはたまたま評価を得る代物だったようだ。

クライアントの中に愛すべき資質をひとつかふたつ見いだすのは、さして困難なことではない。ずっと奥の方までのぞき込めば、どんな人間の中にも必ず何かしらきらりと光るものはある。

私はそういったものを見つけ出し、それを記憶して絵にする技能に優れていたようだ。

ときどき自分が、絵画界における高級娼婦のように思えることがあった。

私はもう若者とは言えない年齢になっていたし、何かが_胸の中に燃えていた炎のようなものが_私の中から失われつつあるようだった。

ただ仕事として技術だけを駆使してクライアントを満足させるだけの仕事。
そんな肖像画の仕事を続け、若い頃の熱意を忘れつつあった私。
そんな三十六歳の画家のが本作の主人公である。

2 みんな月に行ってしまうかもしれない

と妻との離婚についてが語られる。
はある日突然妻から離婚を切り出された。
だが、その理由は不明。
私は妻が他の男とセックスしている事を悟り、家を出て行った。

六年間同じ屋根の下で暮らしていても、私はこの女のことをほとんど何も理解していなかったんだと。

家を出た彼は車で当てもなく走り始める。

おれはこれからどこに行こうとしているのだろう、とその自分自身の像を見ながら、私は思った。というかその前に、おれはいったいどこに来てしまったのだろう?ここはいったいどこなんだ?いや、そのもっと前に、いったいおれは誰なんだ?

妻との出会いを思い出したりしながら、は車で当てもなくへ向かう。
北海道や東北地方を目的もなく走り続けた結果、車は寿命を迎えた。
そうして私は東京に戻ってきた。
友人の雨田政彦に電話をかけ、彼の父親がかつて一人で住んでいた、小田原の山の上の家に住むことになる。

3 ただの物理的な反射に過ぎない

東京に戻ってから小田原の山の上の家に住み始めるところまで。
具体的には、荷物を取りにマンションの部屋に戻った時のこと、
肖像画の仕事の担当エージェントに電話をかけ、肖像画を描く仕事を続けるつもりはないと話したこと、
山の上の家に住み始めた最初の日のこと、小田原駅前の絵画教室で週2で教えることになったことだ。

いわゆる山の上での新生活スタートである。

二ヶ月足らずのあいだに実に多くのものごとが変化を遂げてしまう。

そういうことって結構たくさんあるかもしれない。

4 遠くから見ればおおかたのものごとは美しく見える

ようやく山の上の生活が本格的に始まった。
は何かを描きたいという気持ちになり、キャンバスの前に立ったが絵を描くことが出来なくなってしまっていた。

そして私は生活のために肖像画を描き続けたことで、既にずいぶん人生の回り道をしてしまった。なんとかもう一度、時間を自分の側につけなくてはならない。

時間を自分の側につけなくてはならないというフレーズは、この作品内でたびたび出てくる。
三十六歳という四十歳を手前にした微妙な年齢。
管理人はまだ三十にもなっていないからそこまでピンと来ないが、
その年齢になってこの本を読み直したら色々思うところもあるかもしれない。

そんなこんなで山中の家で暮らしているうちに、は本来のこの家の持ち主である雨田具彦に関心を持つようになる。
有名な日本画家として知られる彼は、昔は洋画を描いていたらしい。
では、いつどのように彼は日本画家に「転向」したのか?
転向は彼がウィーン滞在中(それもヒットラーが政権を握っていた時代)に決意したことのようだが、
では彼のウィーン滞在中に彼は何を見たのか?

というわけで、まず最初にこの雨田具彦という男の謎が浮かび上がる。
段々と物語が起から承に移り変わっていく。

の住む家(つまり雨田具彦の家)の右手のはす向かいには、ひときわ人目を引く大きなモダンな家があった。
そこの隣人とは、テラス越しにワイングラスを掲げて挨拶する程度の関係だった。
だがどうやらこの後物語に大きく関わってくるらしい。

あとになって振り返ってみると、我々の人生はずいぶん不可思議なものに思える。それは信じがたいほど突飛な偶然と、予測不能な屈曲した展開に満ちている。

とにかくこれで舞台装置は揃った。
離婚した画家の、山の上の家、謎の隣人、雨田具彦という画家。
それに加えて『騎士団長殺し』というタイトルを持つ絵画によって物語は動き始めるらしい。

つまり、この本のタイトルの『騎士団長殺し』とは絵画の名前らしい。
一体どんな絵なのか。どう物語に関連してくるのか。
正直読んでる途中、3章までは若干退屈だったのだが、このあたりから一気に興味を引かれてきた。

5 息もこときれ、手足も冷たい

とうとうは『騎士団長殺し』という絵画を発見する。
それは屋根裏部屋にあった。
みみずくの立てる物音で屋根裏部屋の存在を知ったは、そこにあった『騎士団長殺し』を発見。
その絵は謎に満ち溢れ、それと同時に見事な出来だった。

しかし真実は作者の雨田具彦にしか分からない。
いや、本人もいまやひどい認知症を患っているため、誰にも分からない。

「いずれにせよ今となっては、父の過去の記憶はすべて消滅している。あるいはどこかの深い泥の底に沈みっぱなしになっている。何を訊いても返事はかえってこない。おれが誰なのかもわからない。自分が誰なのかもおそらくわかっていない。こうなる前にいろんな話を聞いておくべきだったのかもしれない。そう思うこともある。でも今さら手遅れだ」

雨田政彦の発言だが、これは親を持つ者なら誰でもありうる話なのかもしれない。
管理人の親はまだ元気だが、今のうちに色々聞いておくべきなのかもしれない。

6 今のところは顔のない依頼人です

夏の終わりを迎えた頃、エージェントからに電話がかかってくる。
それは肖像画の依頼で、報酬が法外にいいものだった。
先方の指名はが描くということ。
クライアントはの住む家(正確には雨田具彦の家)の近所に住んでいる人間らしいが…。

肖像画は描かないと決めただが、結局その依頼を受けることにした。

目の前にそういう流れがあるのなら、いったん流されてみればいい。相手に何か隠された目論見があるのなら、その目論見にはまってみればいいじゃないか。動きがとれないまま、こうして山の中で立ち往生しているよりは、その方がよほど気が利いているかもしれない。

確かに思い悩んでずっと立ち止まってるくらいなら、不本意な事でもやってみるのがいいのかもしれない。

7 良くも悪くも覚えやすい名前

不思議な隣人、免色(メンシキ)登場。
純白の白髪を持つ中年の男。
4章でちらっと出てきたテラス越しにワイングラスを掲げて挨拶していた隣人である。

顔はある意味では手相に似ている。もって生まれたものというよりはむしろ、歳月の流れの中で、またそれぞれの環境の中で徐々に形作られてきたものであり、同一のものはひとつとしてない。

「あなたが私を描くとどのような肖像画ができるのだろう。私としてはそれが知りたい。言い換えるなら、私は自分の好奇心に自分で値段をつけたわけです」

好奇心に値段をつける、か。なかなか面白い表現だ。
まだ出てきたばかりだが、免色の人間性が垣間見える。それもすごく興味深いものだ。

8 かたちを変えた祝福

免色という人物について色々調べてみる
しかし、インターネットを使っても情報は出てこなかった。

「世間知らずのおまえは知らないだろうが、この世界で自分についての情報の流出を堰き止めるのは、ある程度の活動をしている人間にとっては相当にむずかしいことなんだ。おまえについての情報だって、おれについての情報だって、それなりに世間に出回っている。おれの知らないおれについての情報だって出回っているくらいだ。おれたちのような取るに足らない小物ですらそうなんだ。大物が姿を隠すのはまさに至難のわざだ。おれたちはそういう世の中に生きているんだ」

インターネット社会
情報は調べれば何でも出てくる時代。
著者の村上春樹自身もやはり苦労しているのかもしれない。

ほとんど未知の人と言ってもいい誰かの生活をたまたま覗き込むこと。この先まず関わりを持つことはない人々と部分的に触れあうこと。それらの情景は目の前にありながら、遥か遠くにある。

は人妻の彼女とセックスを愉しみながら、彼女の娘たちについての話に耳を傾ける。
娘の進路の相談すら受けている。
本来、赤の他人ではあるが、話を聞くことによってそんな他人の生活をたまたま覗き込む。
自分とは全く関係ない、知らない生活を垣間見れる。他人との会話は面白いと思う。

9 お互いのかけらを交換し合う

免色の肖像画を描く仕事がスタート。
彼と会話をし、免色のファーストネームがであること、独身で現在仕事をしていない事などを知る。

「私は思うのですが、大胆な転換が必要とされる時期が、おそらく誰の人生にもあります。そういうポイントがやってきたら、素速くその尻尾を掴まなくてはなりません。しっかりと堅く握って、二度と離してはならない。世の中にはそのポイントを掴める人と、掴めない人がいます」

免色の言葉。
雨田具彦は『騎士団長殺し』を描くことにより、そのポイントを掴んだということだろうか。

10 僕らは高く繁った緑の草をかき分けて

の妹の話と、再び人妻とのセックス。
妹は十二歳で亡くなった。生まれつき心臓に問題があった。
妹の棺が火葬炉に送り込まれる光景を目にした私は閉所恐怖症になった。

人妻からのジャングル通信で、免色の情報がまた増える。
インターネットが役に立たない中でのジャングル通信、侮りがたし。
免色があのモダンな家を買ったのは三年くらい前で、従来は別の家族が住んでいた。
しかし、免色がその屋敷をそっくりそのまま買い取り、家族は出て行った。

免色の謎がどんどん深まっていく。
やはり何か目的があるのか?

11 月光がそこにあるすべてをきれいに照らしていた

夜中寝ていると、の耳に突然鈴の音が聞こえてくる。
その音は雑木林を抜けた祠の裏にある、石の塚の間から聞こえてきていた。
二日連続で聞こえてきたその音は、に向けて鳴らされていた。
私は何かをしなくてはならない。しかしその何かとは?

雨田具彦が人知れず描いた『騎士団長殺し』、謎の隣人免色、そして不思議な鈴の音
どんどん不思議な事が起こり、読者としてもページを繰る手が止まらなくなる。
この章で、物語を進めるためのピースがひととおり出揃った感じ。

12 あの名もなき郵便配達夫のように

免色の肖像画制作の続き。
が夜中に鳴る鈴の音について免色に相談すると、彼は興味を持つ。
その音を確かめるために、夜中に再び家に来ることになる。

「絵に描かれていると思うと、なんだか自分の中身を少しずつ削り取られているような気がしますね」
「削り取られたのではなく、そのぶんが別の場所に移植されたのだと考えるのが、芸術の世界における公式的な見解です」と私は言った。

ゴッホに描かれた名もなき郵便配達夫も、まさか自分の姿が百数十年後に美術館で展示され、人々に真剣な眼差しで見つめられるとは思わなかっただろう。
そう考えると不思議なものだと思う。

13 それは今のところただの仮設に過ぎません

鈴の音が鳴る前、免色に打ち明け話をする。
話は免色の昔の彼女の話。
彼女はいなくなる前の日、免色のオフィスにいきなり来て、セックスをして去って行った。
そのセックスは避妊をせず、彼女の子宮は免色の精子を受け止めた。

彼女はその後結婚し、女の子を出産した。
女の子の名前はまりえ
その子供はひょっとしたら免色の子供かもしれない。
時期的には合っているし、免色は彼女が彼との子供を産むことを決意していたという仮説を抱いた。
もちろん確証はないが。

彼女の意図とは一体何だったのか。
他の男との結婚は彼女の本意ではなかったのかもしれない。
しかし、彼女はどうしても結婚しなければならなかった(家の都合?)
だから彼女は、人知れず免色との子供を産むことを決意した。
…のかもしれない。あくまで管理人の仮説に過ぎない。

14 しかしここまで奇妙な出来事は初めてだ

免色と一緒に再び鈴の音を聞く
鈴の音は幻聴などではなかった。
音は今回も祠の裏の石の塚から聞こえてきていた。
免色は、この出来事が上田秋成の『春雨物語』に似ていると話す。

免色の知り合いの造園業者に頼んで石の塚をどかすことになる。

一気に怪奇小説っぽい雰囲気だ。
しかしただの怪奇小説では終わらない。

15 これはただの始まりに過ぎない

石の塚はどかされ、その下には円形の石室があった。
しかし誰かがいるわけではなかった。ビーフジャーキーのような即身仏もいなかった。
そこにあったのはのようなものだけ。

ますます謎は深まる。
免色の言った通り、この石室はただの始まりに過ぎなかった

肖像画の完成を全く焦るでもない免色自身の謎も深まるばかり。
この男は本当に、に肖像画を描いてもらいたがっているのだろうか?
しかしそうでないならその目的は何なのか。

16 比較的良い一日

私にとって悪い事も特に起こらなかったなかなか気持ちの良い一日。
比較的良い一日

免色の肖像画をどんどん描き上げていく様子は、読んでてなかなか面白かった。
あとは人妻との電話。
電話回線を通しながらもリアルに真剣に身体を絡め合い、射精に至った。
そんな比較的良い一日。

しかしこの作品、いつになくセックスの描写が多い気がする。
(と言っても管理人はそこまで村上春樹の作品を読んでいるわけではないのだが)

17 どうしてそんな大事なことを見逃していたのか

別れ際の妻の言葉、まだ完成していない免色の絵、
ひとりでに移動したスツール、不思議な声
そのアドバイスの結果、絵は完成した。
だがその絵はただの「肖像画」ではなく、自分のために描いた絵だった。

「もしこのまま別れても、友だちのままでいてくれる?もし可能であれば」

私が家を出て行った時の妻ユズの最後の言葉。
離婚夫婦の会話(というか別れ際の恋人?)としてはよくあるセリフなのかもしれないが、
別れた後に「良き友だち」になるのはとても難しい事だと思う。

自分が昨日おこなった仕事を、今日の新たな目で評価し直すこと。手を動かすのはそのあとでいい。

確かに昨日の自分と今日の自分とでは違った視点で見れるかもしれない。
新たな見地が開けるかもしれない。

それにしてもスツールをずらし、私にアドバイスをした謎の声は一体何なのか。
不思議な事は続き、謎が謎を呼ぶ展開。

18 好奇心が殺すのは猫だけじゃない

例の石室に入り一時間過ごした免色。
こんな行動を取った理由がこの時点では全くの謎だが…。
そして完成した絵を免色に見せる
彼は絵の出来に満足し、完成祝いを家に招待する。

「好奇心というのは常にリスクを含んでいるものです。リスクをまったく引き受けずに好奇心を満たすことはできません。好奇心が殺すのは何も猫だけじゃありません」

免色が自分からわざわざ石室に入りたがったのは、まさに好奇心の塊ということなのか。
それとも別の意味合いがあったのだろうか。

「もちろんこの絵を描いたのはあなたです。言うまでもなく、あなたが自分の力で創造したものだ。しかしそれと同時に、ある意味ではあなたはこの絵を発見したのです。つまりあなた自信の内部に埋もれていたこのイメージを、あなたは見つけ出し、引きずり出したのです。発掘したと言っていいかもしれない」

表現と言うことはつまりそういうことなのかもしれない。
自分のイメージを発掘し、引きずり出す。
これは決して絵を描くことに限らず、文章を書くこと、音楽を奏でることにも同様の事が言えると思う。

19 私の後ろに何か見える?

家を出て行き、当てもなく車で旅していた頃の回想。
宮城県の海岸沿いの小さな町で、見知らぬ若い女と一夜のベッドを共にした話。
それとは別に、この章では人妻のガールフレンドから免色が昔東京拘置所に入れられていた事を教えてもらう。
罪状は恐らく経済犯罪?だが結局無罪になった。ますます免色という男の謎は深まる。

見知らぬ若い女が一体どういった女なのかも分からない。
彼女を追っていた(?)黒いキャップをかぶった男が、彼女とどういった関係だったのかも分からない。
全て読んだ上での感想だが、その白いスバル・フォレスターの男はこの作品内で割と重要な役割を持っている気がする。

世の中には空しいことはたくさんあるが、ラブホテルの部屋で朝に一人で目を覚ますくらい空しいことはそれほど多くないはずだ。

結局若い女の目的とは何だったのか。
財布は盗られてないし、特に金目当てというわけではなかった。

20 存在と非存在が混じり合っていく瞬間

免色の絵を完成させたが次に描き始めたのは、白いスバル・フォレスターの男
なぜかはわからないが、それが私に求められていることだった。

「つまらん忠告かもしれないが、どうせ同じ通りを歩くのなら、日当たりの良い側を歩いた方がいいじゃないか」

久々に会った雨田政彦の言葉。
どうせ同じ人生を歩むのなら、良い側を歩んだ方がいい。
そんなメッセージの暗喩といったところか。

そして真夜中、再び鈴の音が鳴り始めた。

21 小さくはあるが、切ればちゃんと血が出る

騎士団長登場。
その正体はイデア。…イデア?
騎士団長はあの祠の裏の穴の中にいたらしい。
鈴を鳴らしていたのも彼。

「あたしにはもともと、正確な意味での記憶というものがあらない。しかしあたしがあの穴の中に閉じ込められていたというのは、なにがしの事実ではある」

奇妙な喋り方をする騎士団長。
騎士団長の姿をしているが、別に絵から抜け出して来たわけではないらしい。
どことなくチャーミングな存在だな。

22 招待はまだちゃんと生きています

最初に騎士団長が姿を顕した翌日。
再び顕れた騎士団長。
彼の要求は、免色の家の招待でミイラを招待すると言った約束がまだ有効かどうか確認すること。
ミイラではなく騎士団長だが、差し支えないかと確認をとること。

実際に確認をとったところ、その約束はまだ生きていた。

しかしとりあえず、毎朝ラジオの七時のニュースに耳を傾けることを、私は生活の一部にしていた。たとえば地球が今まさに破滅の淵にあるというのに、私だけがそれを知らないでいるとなれば、それはやはり少し困ったことになるかもしれない。

自分にとってほとんど意味のないものでも、ニュースはとりあえず聞く。
確かに世界が破滅の淵にあっても自分だけは知らない状態になったら困るな。

人にはできることなら知らないでいた方がいいこともある。

「大事なのは無から何かを創りあげることではあらない。諸君のやるべきはむしろ、今そこにあるものの中から、正しいものを見つけ出すことなのだ」

白いスバル・フォレスターの男の絵を描くと、騎士団長のやり取り。
創作とは無から何かを創り出すというよりは、意識にあるものを見つけ、引っ張り上げ、表現することなのかもしれない、と読みながらふと思った。

23 みんなほんとにこの世界にいるんだよ

妹と富士の風穴に入った時の回想と、免色宅訪問。

いずれにせよ、あの風穴の中で、妹が小さな声でまるで打ち明けるように私に言ったことは真実だったんだ、と私は_こうして三十六歳になった私は_今あらためて思った。この世界には本当にアリスは存在するのだ。三月うさぎも、せいうちも、チェシャ猫も実際に存在する。そしてもちろん騎士団長だって。

実際にいるかわからない。
でもそういった存在を信じてみた方が、人生面白いと思う。

免色の家は予想通り豪華。
こんな豪華で静かな家に一人暮らし、正直羨ましい。

24 純粋な第一次情報を収集しているだけ

引き続き免色宅
免色から、谷間の向かいの家に、以前彼が話した、自分の娘かもしれない少女が住んでいることを明かされる。
その少女を高性能の双眼鏡で見守る為に、高い金を支払ってこの屋敷を手に入れた。

なかなか奇妙な話である。

25 真実がどれほど深い孤独を人にもたらすのか

免色から、娘かもしれない少女の肖像画を描いてほしいと依頼される
少女の名前は秋川まりえ
が講師をしている小田原の絵画教室の生徒でもある。
更に、彼女をモデルにして肖像画を描いているときに、の家を訪問させてほしいと頼む免色。

「一度だけでいい、そしてほんの短いあいだでかまいません。彼女と同じ部屋の中にいさせてください。同じ空気を吸わせてください。それ以上は望みません。」

すごい。この色々仕組まれている感じ。
全て計算ずくでこのお願いをしたとなると、やはり免色は相当計算高い男のようだ。

この話とは別に、免色から語られる雨田具彦の新情報。
雨田具彦はウィーン滞在中に恋人がいた。
しかし恋人はナチス高官暗殺を企てた地下抵抗組織のメンバーで、恐らく収容所に入れられた。
一方、雨田具彦は日本に強制送還された。

その出来事が彼が『騎士団長殺し』を描き、人知れず屋根裏に隠しておいた理由に通ずるのかもしれない。

26 これ以上の構図はありえない

免色の屋敷を訪問した二日後、は色々な思いを巡らせていた。
騎士団長殺し』、妹のこと、ユズと結婚した時のこと、免色のこと…。

私は免色という人物に対して親近感連帯感のようなものを感じていた。
彼の行動は私の理解の範囲を超えていたが、動機に関しては理解することができた。

27 姿かたちはありありと覚えていながら

免色との夕食会のこと(といっても料理や部屋の感想だけだが)を人妻のガールフレンドへ報告。
白いスバル・フォレスターの男の絵の突然の完成。
白いスバル・フォレスターの男は画面の奥からこれ以上なにも触るなと語りかけていた。

東北の見知らぬ女を抱いた時に、冗談でバスローブの紐で女の首を締めた記憶。
白いスバル・フォレスターの男は、その時に一瞬でも湧き上がったの凶暴性のメタファーのようなものなのだろうか。

28 フランツ・カフカは坂道を愛していた

絵画教室での秋川まりえと、騎士団長再び。
そして着々と準備が整う秋川まりえの肖像画の件。

免色の方では準備は万端のようだが、私は騎士団長のアドバイスに従って二日考えてから返事をすることにした。
それにしても免色が凄い。
屋敷を買い取った話といい、目的の為なら費用も厭わず用意周到に準備して手に入れようとする男なのだろう。

29 そこに含まれているかもしれない不自然な要素

二日後、私は正式に秋川まりえの肖像画を描くことに。
それから雨田具彦について明かされる新たな事実。
雨田具彦と関わりのあった地下抵抗組織は全員処刑あるいは殺害された。
生き残ったのは日本へ強制送還された雨田具彦だけだったらしい。

彼はその口に出来ない出来事の真相、あるいはその想いを『騎士団長殺し』に託したのかもしれない。

その翌日、ユズから離婚届の入った封筒が届く。
彼女は一体どんな思いで離婚を切り出したのか?
だが人の心の動きなど、習慣や常識や法律では規制できない、どこまでも流動的なものだ。
もしかしたら理由なんてものは存在しないのかもしれない。

30 そういうのにはたぶんかなりの個人差がある

秋川まりえとその叔母、秋川笙子登場。
叔母は上品な女性。
まりえは美しいが変わった子。
胸の大きさをやたら気にする。そういう年頃だからかもしれない。

私とまりえの会話からして、まりえは私には結構心を開いているのかもしれない。

31 あるいはそれは完璧すぎたのかもしれない

その日の夜、免色と電話。
その週はとくに何ごとも起こらなかったが、ユズからの手紙が届いた。
なぜ彼女は離婚届を用意するのに時間がかかったのか。
ユズの行動に関しても謎が多い。

ぼくもぼくのことが理解できればと思う。でもそれは簡単なことじゃない。

32 彼の専門的技能は大いに重宝された

サムエル・ヴィレンベルク『トレブリンンカの反乱』からの引用。

上巻はここまで。
第2部 遷ろうメタファーに続く。




アンケート

ブログの今後書く記事などの参考にします。
もし良かったら回答していってください。
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